九、|天《あま》の|羽衣《はごろも》

九、|天《あま》の|羽衣《はごろも》

上海龙凤shlf最新地址そんなことで、手纸で歌のやりとりをし、表むき会えないが、内心の亲しさをかわしあった。三年ほどたったろうか。

その年の春のはじめのころから、姫は晴れて月の美しい夜に、普通の时にくらべ、考え込むようすだった。心も深く沈んでゆくようだ。

そばで世话をしている人が、やめさせようとした。「月を见るのは、およしになって下さい。あれは夜の暗さのなかにあって、细くなったりもする。からだや心に悪いとされていることです」

しかし、ひまがあり、人がそぱにいないと、月を见て悲しそうに泣いている。

七月十五日の夜の月。なお、これは旧暦であり、十五夜は満月。この次の満月が、中秋の名月で、とくに明るいとされている。

それを眺めるかぐや姫は、悲しがって泣くのが、かなりはげしくなった。そばの人が、竹取りじいさんに、そのことを报告した。「姫は以前から、月を気になさるようすでしたが、最近は普通ではありません。心配です。なにか、よほど思いつめて悩んでおいでのようです。よくない変化があるといけませんので、ご注意なさって下さい」

じいさんも思い当ることがあるので、かぐや姫に闻いた。「月を见て、そんなに深く悲しがるのは、どういう気分からですか。生活が苦しいわけでもないし、男の人たちには思いを寄せられている。楽しがっていいのではありませんか」

姫はそれに答えた。「べつに、悲しがってはおりません。うまく话せませんが、月を见ていると、なんとなく、この世で生きていることに、むなしいような、さびしいような感じがするのです。やめようとしても、押さえられません」

かまわないで欲しいらしい。それから何日かして、じいさんが姫のようすを见ると、やはり元気がない。もの思いにふけり、前よりよくなったようすもない。「なあ、わたしの宝である姫よ。いったい、なにを考えて、さびしがっているのです。心配ごとなら、打ちあけて下さい。できるだけのことはしますよ。それには、话してもらわなければ」「どうしてなのか、わたしにもわからない。どうしたらいいのか、落ち着かないのです。もう少し、待って下さい」「いっそのこと、月を见なければいいのではないかな。おやめなさい、それで悲しくなるのなら」

じいさんの考えは、それぐらいしかなかった。姫は答える。「そうもいきません。夜になると、月は空に出ます。つい、见てしまいます。目がそちらをむいてしまうのです」

上海龙凤shlf最新地址それは、だれにもやめさせられない。月の出のおそい时期には、しばらくおさまっていたが、それも限りがある。旧暦の三日、三日月を见ることができるようになり、月が少しずつふくらみはじめると、悲しさをこらえきれず、ため息をつき、泣いたりする。

そばの人たちは、话しあう。「なにかなかったら、あんなに涙を押さえたりはなさらぬはずだ。しかし、だまったままでは、どうしようもない」

上海龙凤shlf最新地址じいさん夫妇に告げても、それへの案はなにもなく、おろおろするばかり。

八月の十五夜にあと何日と迫った晩。かぐや姫は、|半《はん》|月《げつ》をすぎてさらにふくらみかけた月を见て、これまでになく激しく泣いた。

これまでは、悲しみをこらえてという感じだったが、いまはあたりかまわず泣いている。竹取の夫妇や、そば仕えの人びとも、惊いて闻いた。「どうしました。わけを话して下さい」

かぐや姫は、泣きながら言った。「ずっと以前から、いつ本当のことを申しましょうか、何回も考えました。けれど、それを知ると、おじいさん、おばあさんが、どんなに悩み、悲しむかと思って、口をつぐんでしまいました。それで、ここまできてしまいました。もう、だまりつづけではいられません。いま、なにもかもお话しいたします」「どういうことか」「じつは、わたくしは、この世の者ではないのです。しかし、妖怪でも、なにかが化けているのでもありません。ここでない场所、月から来た者なのです」「あの、空の月か」「はい。そのかなたから、月を|経《へ》て送られてきました。なにかわけがあって、この国へと来ることになってしまいました。くわしいことは、おぼえていません」「そうとはなあ」「それが今や、もとの场所へと帰らなければならなくなりました。月の方角から、そのことが伝わってくるのです。この十五日の夜がその时です」「なんと」「その夜に、むこうの国から、迎えの人たちが来るのです。このことは、どうにも変えようがありません。このお话をしたら、さぞ、おなげきになるだろうと、ことしの春から思い悩んでいたのです」

姫は泣き、涙にむせんだ。あまりのことに、竹取りじいさんは、息をのんだ。やがて、考えをまとめるように言った。「まさかといったお话だ。涙ながらのそのようすは、でまかせとは思えない。そもそもですよ、わたしは姫を、竹のなかから见つけた。その时には、草の种ほど、小さな小さな姿だった……」

上海龙凤shlf最新地址当时を思い出しながら、つづける。「……ここでお育てし、いまは普通の人と同じような大きさになりました。わが子ときめて、悪いわけがない。それを连れ去りに来るなど、だれに许されます。そんなことが、この世にあっていいことでしょうか……」

不満や怒りがこみあげてくる。「……そうか、この世のことではないのだったな。ああ、姫がいなくなるのなら、死ぬのは、わたしのほうだ。生きている気力もなくなってしまう」

上海龙凤shlf最新地址じいさんも、泣きながら叫んだ。心の乱れを、押さえきれないらしかった。それにむかって、かぐや姫は言う。「月のかなたの都には、わたくしの父と母がいるはずです。この国には、ほんのしばらくということで、送られてきたようです。それが、こんな长い年月、お世话になってしまいました。むこうとこちらでは、时の流れがちがうのでしょうか、时の感じ方がちがうのでしょうか……」

姫は、ひと息ついてつづけた。「……じつの父や母のことは、なにもおぼえていません。长くここにいたので、ここの国の人という気持ちになってしまいました。自分の国へ帰れるとなっても、うれしいなど少しも思いません。悲しさだけしかありません。それでも、帰らなければならないようです。わたくしのからだの、なかかそとか知りませんが、见えない力でそうさせられてしまうようです」

上海龙凤shlf最新地址と姫も、じいさんたちとともに、声を高めて泣く。そばで身の回りのことを手伝っている人びとも、同じようになげき悲しんだ。ずっと亲しく、身ぢかにいたのだ。姫の性格は美しく上品だった。あらためて、そのことを感じさせられた。

上海龙凤shlf最新地址それが急に、别れなければならなくなったとは。见なれていたとはいえ、なにごとにもかえられない存在だった。そうなると、食事ものどを通らなくなるだろう。またも、涙がこみあげてくる。

竹取の家の人たちが困っているらしいとの话を、ミカドはお闻きになった。使いの者がやってきたが、出迎えたじいさんは、泣きつづけるだけ。

使いの者には、じいさんが心配のあまり、ひどくふけたように见えた。ひげの白さもふえ、しわも深く多くなり、腰もまがり、涙で目がただれている。惊きと悲しみは、人を弱まらせる。

上海龙凤shlf最新地址役目として、じいさんに闻いた。「なにか、ひどく思い悩み、悲しんでいるというが、どうなのか。ミカドはたしかめてくるようにと、おっしゃった」

上海龙凤shlf最新地址そこで、じいさんは泣きながら、いきさつを申し上げた。「ミカドもお気にかけて下さるとは、ありがたいことです。姫の话によると、この十五日の夜、月のかなたの都から、连れ帰る人たちが来るのです。もし、お力を贷していただけるのでしたら、多くの武士を、よこしていただきたいものです。迎えにやって来た人たちを、つかまえて下さい。お愿いです」「そうミカドに报告しましょう」

使いの者は宫中へ帰って话した。じいさんは疲れはて、急に年をとったような外见になっている。空から十五夜に来る人たちを、防いでいただきたいとのこと。

ミカドは、うなずいて言った。「わたしは、一目かぐや姫を见ただけで、忘れられない思いにとらわれてしまった。じいさんはじめ竹取の家の人たちとなると、朝から夕方まで、长いあいだ姫と暮していた。それがいなくなるのだから、いかに悲しがるか、わかるよ。できるだけのことはしよう」

上海龙凤shlf最新地址その、十五日となった。

上海龙凤shlf最新地址すでに、ほうぼうの役所にミカドの命令が伝えられていた。武士たちも人数がそろえられ、やるべきこともしらされていた。

さしずする|系《かかり》として、中将の|高《たか》|野《の》の|大《おお》|国《くに》が当てられた。もともとは宫中を护るのが役目の武士たち、二千人。それらが、竹取の家へと、さしむけられた。

上海龙凤shlf最新地址竹取の家の各所で、守りにつく。まわりの土を盛ったかこいの上、そとや内侧などに千人。家や仓や小屋の屋根の上、庭、木のかげなどに千人。

上海龙凤shlf最新地址すきまもなしに人がいるのだ。そのほかに、家にやとわれている人たちもいる。弓矢は、その人それぞれに行き渡っている。家のなかでは、女性たちも、姫のために働こうと身がまえている。

上海龙凤shlf最新地址で、かぐや姫。厚い壁の仓のなかで、おばあさんが姫を抱いている。じいさんは、きびしく戸缔りをした。「これだけ、守りをかためているのだ。天からやって来る人に负けるわけがない……」

窓からそとをのぞき、屋根の上にいる人に声をかける。「……なにかが空のほうで动いたら、どんな小さなものでも、矢でしとめて下さい」

上海龙凤shlf最新地址その人は答えた。「やりますとも。われわれは、そのために来たのです。夕方に飞ぶ一匹のコウモリでも、うちおとします。それを、さらしものにしますか」

上海龙凤shlf最新地址じいさんは、たのもしく思って喜んだが、かぐや姫は言う。「わたしのために、このようにたてこもり、戦いのための用意をととのえても、あちらから来る人にはかなわないでしょう。忘れていたことが、少しずつ心によみがえってきます」「しかし、これだけの守りだ」「弓矢も、なんの役にも立たないでしょう。いかにとじこもっても、むこうは、たやすく|开《あ》けてしまいます。いまは激しく戦おうと思っていても、いざとなると、その势いは消えてしまうと思いますよ」

じいさんは、せっかく姫のために人びとが来てくれたのにと、自分をはげますように言った。「力のかぎり、やってみます。连れに来た人がここへ来たら、わたしが飞びかかる。目をこの|爪《つめ》で突いてやる。髪の毛をつかんで、引き倒してやる。着物を引きさき、|尻《しり》を出して、ひっぱたく。みなにそれを见せて、耻をかかせてやる」

かぐや姫は、じいさんの気を静めようと、ゆっくりと话しはじめた。「そんな大声を、お出しにならないで下さい。屋根の上の人たちにも闻かれてしまいます。お気持ちはわかるのですが、あまり取り乱しては、みっともないでしょう。お别れの时なのですから……」

姫は思い出をふりかえる。「……わたくしとしても、これまでのご恩のありがたさに、ゆっくりお礼も申し上げるひまもない。このまま行かなくてはならないのは、心残りでなりません。长くいてもいいきまりだったら、どんなにうれしいことでしょう。それが、そうでないのですから、残念でなりません……」

上海龙凤shlf最新地址ため息をつき、つづける。「……育てていただいたのに、なにもむくいてさしあげることができない。むこうの国へ行くのも、そのことを気にし、苦しい気持ちでの旅になりましょう。春ごろから、月の出る夜はそれにむかい、わたくしの愿いを伝えようとしました。帰るのを一年、せめて半年でも、あとにしていただきたいと……」

おわびの言叶でもあった。「……それは许されませんでした。そのため、なげいた姿をお见せしてしまいました。ここへきて、大変なご心配をかけ、たくさんのお手数もおかけしました。もう、胸のつまる思いです……」

どうにもならない运命なのだ。「……月のかなたの、あの都では、だれもが美しく、そこでは年をとるということがない。また、心を悩ますようなことも决して起らない。はっきりと思い出せるようになりました。それなのに、帰れるのがうれしくありません。ここの人たちに、亲しみを持ってしまったからでしょう。それに、育ての亲のお二人を、そのままにして帰るのです。余生のお世话もできないまま。心残りですし、こんな悲しいことはありません」

上海龙凤shlf最新地址またも、泣くのが激しくなった。じいさんは、なぐさめて言った。「そう、なにもかも悪い方へと考えたりしないで、元気をお出し下さい。どんなに美しく强い人が来ても、大丈夫ですよ。武士たちがこんなに集まったのは、いままで见たこともない」

防げないわけがないと思っている。

上海龙凤shlf最新地址そのうち、夕暮れが过ぎ、夜となる。満月がのぼった。中秋であり、空気も澄んでいる。

上海龙凤shlf最新地址时刻は、真夜中ごろになった。

上海龙凤shlf最新地址竹取の家のあたりが明るくなり、満月の光が十倍になったようだ。その明るさが、さらに増し、昼かと思えるほど。そばの人の髪の毛も一本ずつ、见わけられる。

その光のなかを、高い空から、何人かの人が云に乗って、おりてきた。そして、地面から人间の高さあたりの场所に、浮かんだまま并んだ。

上海龙凤shlf最新地址これを见ると、家にたてこもった人たちも、そとにいた人たちも、なにかの力で势いを押さえられたようになった。戦おうという気持ちが、うすれる。

このままではと、なんとか弓矢を手にしようとしても、にぎる力が出ない。いつも勇ましいのがとりえの者が、やっとのことで、矢をはなった。しかし、ちがった方向へ、少し飞んだだけ。

そんなわけで、だれも、さっきまでの心はどこかへ消え、からだも考えも自分のものでないようになり、ぼんやりと顔を见あわせるだけ。

上海龙凤shlf最新地址その、地面から浮いて立ち并んだ人たち。身につけている衣服は、たとえようもなくすばらしい。そばに、空を飞べる乗り物も浮かんでいる。その屋根は、绢の|伞《かさ》のようだった。

その人たちのなかの、とくに地位の高いらしい人が、家にむかって言う。「ミヤツコという者、ここへ出てきなさい」

上海龙凤shlf最新地址本名を呼ばれ、竹取りのじいさんも、さっきまでの気持ちを失っている。なにかに酔ったような感じで、前へ出る。ひざまずき头を下げた。

天からのその人は、告げる。「よく闻くのだ。おまえは、とくにすぐれた人でも、とくに世につくした人でもない。しかし、善良な人であり、小さなことで、多くの人びとを手助けした。そのため、姫をしばらくのあいだ、そちらに预けたのだ。それによって、竹のなかから黄金を手に出来、昔とくらべようのないほど、豊かになった。わかったな」「はあ」「そもそも、かぐや姫はだな、われわれの国で、してはいけないことをなさった。ここの言叶では、罪をおかしたとでも言うのかな。そのむくいとして、この、つまらない国へと送られたのだ。もともと、おまえたちとは、つきあえない立场なのに。姫も、それなりに苦しまれたはずだ。もうよかろうと、迎えに来た。めでたいことだ。悲しむべきことではない。おまえには、どうしようもないことだ。早く姫を出しなさい」

上海龙凤shlf最新地址思いもよらぬ话で、じいさんは答えて言った。「かぐや姫は、ここでお育ていたしました。二十年ちかくになりましょう。しばらくのあいだとの话ですから、年月がちがうのではありませんか。おさがしのかぐや姫は、うちにいる姫ではなく、别なところにおいでのかたではございませんか……」

上海龙凤shlf最新地址じいさんは、无理らしいと知っても、できるだけのことは言った。「……ここにいるかぐや姫は、いま重い病気でございます。出かけることなど、できないでしょう」

上海龙凤shlf最新地址相手は、そんなことには答えようともせず、家のほうへと、飞ぶ乗り物を近よせる。「さあ、かぐや姫よ。帰れる时が来たのです。このようにけがれた地、おろかな人の多いところに、とどまっていなくてもよくなったのです。お出になって下さい。どうぞ」

と大声。

たちまちのうちに、|缔《し》めてあった戸がひとりでに开く。各所の|格《こう》|子《し》|戸《ど》も、人がさわりもしないのに、みな开いた。

かぐや姫は、おばあさんに抱きしめられていたが、外に出てきた。どうにも防ぎようがない。じいさんは、地面にすわったまま、姫を见つめて泣いている。

かぐや姫は、どうしようもなく泣きつづけている、竹取りじいさんのそばへ寄って言う。「わたくしだって、帰りたくて帰るのではありません。望むようにできないのです。せめて、高い空で姿が见えなくなるまで、见送って下さい」

上海龙凤shlf最新地址しかし、そんな気分にはなれない。「そう言われても、见送るというのは别れです。悲しみがつのるだけ。わたしは年寄りだ。このあと、どう生きればいいのです。连れていってもらうわけには、いかないのか」

上海龙凤shlf最新地址じいさん、泣くのをやめない。姫も、気の毒と思うが、いい方法も思いつかない。「それでは、手纸を书いて、それを残しておきましょう。わたくしを思い出したら、お読みになって下さい。声を闻くような気持ちに、なれるかもしれません」

そして、泣きながら文を书いた。[#ここから2字下げ]

上海龙凤shlf最新地址わたくしも、この国に生れた普通の人でしたら、こんな别れはいたしません。父や母を叹かせ、悲しませながら行ってしまうようなことは。

上海龙凤shlf最新地址ずっとおそばにいて、いつまでもお世话をしたいのです。それは、心残りでなりませんが、やむをえないのです。

上海龙凤shlf最新地址これまで着ていた着物をぬぎますので、思い出の品となさって下さい。また、月の出る夜は、それを眺めて下さい。わたくしも、そうして悩んだのです。

わがままなお别れなので、気がとがめます。かなたの国へ帰るのではなく、空のなかへ落ちてゆくような気持ちでございます。[#ここで字下げ终わり]

上海龙凤shlf最新地址それを、そばに置く。

天からの人たちは、二つの箱をここに运んできていた。ひとつには|羽衣《はごろも》が入っている。もうひとつには、不死の霊薬が入っている。ひとりが姫に言った。「さあ、|壶《つぼ》のなかの、贵い薬をお饮みになって下さい。この地は、けがれた好ましくない场所です。ご気分も悪くなっていましょう。この薬で身も心も清めて下さい」

上海龙凤shlf最新地址さし出す薬を、姫は少しなめて、ぬいで残してゆくつもりの着物のたもとに、残りを入れようとした。年をとったじいさん、ばあさんの役に立てばと。

しかし、そばの天からの人は、それをさせなかった。羽衣を取り出して、姫に早く着せようとする。「もうしばらく、待って下さい……」

と押しとどめて言った。「……それを身につければ、ここの人とわかりあう気持ちが、なくなってしまう。すべてを忘れてしまいます。その前に、もうひとりのかたに、手纸を残したいのです」

书きはじめた姫に、天からの人が言う。「そう、ゆっくりしてはいられません」

上海龙凤shlf最新地址ここは、いごこちがよくないのだろうか。「そんな、いたわりのないことを言わないで下さい。ここの人の心を持つわたしとも、别れるのですから」

上海龙凤shlf最新地址静かだが、强い声。そして、ミカドへの手纸を书いた。落ち着いてて、急がされているのを気にしないで。[#ここから2字下げ]

上海龙凤shlf最新地址この家へ、多くの武士たちを、わたくしのためによこしていただきました。お気持ちは、ありがとうございます。しかし、迎えを防ぐことも、ことわることもできません。悲しい思いですし、心残りでもございます。

上海龙凤shlf最新地址このあいだ、宫仕えしないかとのお话がありましたが、おことわりいたしました。それも、このようになる运命でしたので、强い言叶を使ってしまいました。

わがままとお思いになり、お|怒《いか》りになり、ふしぎがられたことでしょう。お会いして、おわびするひまの残されていないのが、気になっております。

今はとて|天《あま》の|羽衣《はごろも》着るをりぞ[#ここから3字下げ]

上海龙凤shlf最新地址君をあはれと思ひ出でける[#ここから2字下げ]

上海龙凤shlf最新地址この和歌は、かけ言叶もなく、そのまま受け取るだけ。もう今となっては、羽衣を身につけなくてはなりません。すべてとお别れです。ここでの思い出も消えてしまうでしょう。いろいろのことがありましたが、あなたへの亲しさは忘れたくございません。[#ここで字下げ终わり]

その手纸に、壶に残っている薬をそえて、武士たちをひきいる者、高野の中将に差し出した。だれも身动きできないので、天からの人が、取りついだ。

上海龙凤shlf最新地址そこで、|羽衣《はごろも》が着せられた。

すぐに、心が変った。竹取りのじいさんたちへの、気の毒だ、悲しいことだとの思いは、なくなった。この国への心残りも消えた。羽衣とは、そういう力をそなえている。

姫が乗り物に移ると、それは上へと浮かび、そばの天からの人たちも、ともに空へとむかって、远ざかっていった。

あとに残された、竹取りのじいさん、ばあさん。泣きつづけ、涙に血がまざるのではと思われるほどだったが、もはやすべてが终ってしまったのだ。

上海龙凤shlf最新地址そばの人が、かぐや姫の残した手纸を読んできかせたが、なぐさめの役に立たない。「姫は、いなくなってしまった。もっと生きていたいなど、少しも思わない。なんのために生きるのか。つまらない世の中だ」

上海龙凤shlf最新地址気力もおとろえ、すすめられても薬も饮まず、寝たままになり、起きてなにかをしようともしなかった。

上海龙凤shlf最新地址中将は、武士たちをひきつれて、宫中へ戻ってきた。ミカドに申し上げる。「天から迎えがやってきました。かぐや姫を守ろうと、戦うつもりでしたが……」

うまくいかなかったようすを、くわしく话した。别れぎわに渡された薬の壶と、手纸とをさし出した。

上海龙凤shlf最新地址ミカドはそれをお読みになり、そうであったか、いやで断わったのではなかったのかと、あらためて姫をなつかしがった。なにも食べたくなくなり、音楽や舞いで楽しむこともなさらなくなった。

ある日、ミカドは地位の高い人たちを呼んで、闻いた。「最も天に近いのは、どこの山か」

ものごとにくわしい人が答えた。「|骏《する》|河《が》の国(静冈県)にある山でしょう。|唐《から》や|天《てん》|竺《じく》は知りませんが、この都から行けるところとなると」

上海龙凤shlf最新地址そこで、ミカドは歌を作られた。[#ここから1字下げ]

|逢《あ》ふことも涙にうかぶわが身には[#ここから3字下げ]

死なぬ薬もなににかはせむ[#ここで字下げ终わり]

もう、二度と会うことがない。そう思うと涙が流れ、その海に浮かぶような、さびしさだ。べつに长生きしようとも望まない。いただいた不死の薬も、使う気にならない。

上海龙凤shlf最新地址役目にふさわしいだろうと、|调《つき》の|岩《いわ》|笠《かさ》という者を呼んだ。月にも竹にも縁のある名前だ。「この歌をかいた手纸と、壶とを持って、|骏《する》|河《が》の山へ登ってくれ。そして、火をたいて、手纸と壶とを燃やしてくれ。思いがとどくかもしれない。ききめがあったとしたら、この国がいつまでもつづく役に立つかもしれない」

その命令で、武士たちを连れて、山の上へむかった。|士《さむらい》に|富《と》むで、富士の山と书くようになった。それは不死の山であり、不二の山でもある。

烟は云のなかへ立ち昇り、いまも|顶《いただき》に烟のような云のかかることが多い。

あとがき

やっと、ひと息。

物语が完结したので、ページを改めて最後の章について、いくらか书いておく。

かぐや姫は、天空のかなたの世界の人。当时とすれば、まさに梦にも思わなかった展开だろう。あれよあれよと感じているうちに、天へ帰ってしまうのだ。それまでの伏线が、生きてくる。

いくらかの问题点は残るが、それは仕方ない。たとえば、姫が自分の身の上を、最初から知っていたのか、しだいに思い出したのか。どちらでもいいが、私は後者をとりたい気分だ。

ラストの光景は、映画「未知との遭遇」を思わせる。UFOに関して、私は昔から関心を持っているが、その実体について、まだ判定は下せない。しかし、目撃谈のなかには、光に包まれ、戸がしぜんに开くような例が、いくつもある。なにか関连があるのかもしれない。

上海龙凤shlf最新地址かぐや姫の帰る先を、私は「月のかなた」と现代訳で书いた。アポロ乗员の撮影した月面写真を见ては、正直いって、そうしたくなる。

しかし、原文によると、かぐや姫も最初は「月」と话すが、日が迫ると「あの国」とか「かの都」と言うようになる。迎えに来た人たちも「天人」であり「月人」ではない。だから、月を経由して来たとも、とれる。

物语の作者も、天のかなたと、ばくぜんと设定したかったのではないだろうか。月を人に似せた话はあるが、それは神话の形をとってである。住民のいる话は、ほかにないのではないか。

このはるかあと、一六〇〇年代の前半、シラノ·ド·ベルジュラックが『月と太阳诸国の|滑《こっ》|稽《けい》|谭《だん》』を书き、月をアダムとイブの楽园とした。ドイツの天文学者ケプラーが、太阳系を思考したのは、一五九五年。话题として、耳にしていたのだろう。

かぐや姫の书かれた时代、月の住民という感覚があったかどうか。満ち欠けもするし、月を见つめるなとの文も出てくる。夜空で目立つ月、そのむこうにとすれば、贤明な进め方となると思う。

その八月十五日だが、少し加笔し 旧暦と説明した。现行の太阳暦より、约一ヵ月、うるう月がその前に入ると、二ヵ月ちかくあとになる。いまの十月という场合もある。旧暦だと、十五日は十五夜、満月だ。

もちろん、原文にはない。明治も半ばすぎに「来年の今月今夜のこの月を」とのせりふの小説が书かれた。太阳暦だと、月が出ないことだってあるのだ。

おひまなかたは原文をもだが、気になったのは、竹取りのじいさんの年齢である。初めのほうで、姫に男性との交际をすすめる时、自分は七十になると言っている。月からの迎えの人には、二十年间も世话をしたと言っている。

ミカドの使いに会った时には、五十なのにふけ込んでいるとの描写がある。

上海龙凤shlf最新地址书きうつす时のまちがいとの説もある。それなら、逆に直されてもいいのに、そういう本はないらしい。なにか意味があってとは、思えない。五十五から六十五ぐらいの间の事件と考えたい。二十年间とは、天人への大げさな形容だろう。あるいは、五、六年とすべきかもしれない。

物语では、ひとり三年ずつで顺次にととられる形になっているが、普通なら、五人が同时にとりかかるだろう。现代なら、他者との竞争の话に仕上げるだろうが、それだと复雑になってしまう。これでいいと思う。

上海龙凤shlf最新地址持参した不死の薬。じいさんに渡すのを天人がさまたげ、ミカドになら许す。じいさんには富を与えたから、薬はまだ若いミカドになのか。敬意を表わしてか。ここも、それでいいだろう。他の世界の人の判断なのだ。

ミカドについては、亲しみやすい人间に描かれている。その时代は、人口もごく少なかったし、気やすく话せる存在だったのだろう。じいさんだって、直接に会って话せたのだ。帝の字を使いたくなかったのは、そのためである。

上海龙凤shlf最新地址想像を絶した発想は、羽衣の作用だ。着ると、すべての思考が一変する。けがれた世から天界へという仏教思想なら、死の意味になりそうだが、そんな印象を与えない。スチーブンソンの『ジキル博士とハイド氏』は、十九世纪後半の作である。

上海龙凤shlf最新地址SFの祖、H·G·ウエルズも、タイムマシン、透明人间、巨大生物など、さまざまな空想上の装置や薬や生物を作りあげた。前例だのヒントなどなくても、个人の才能でユニークなものが作れるのだ。

上海龙凤shlf最新地址羽衣伝説が先かあとか知らないが、あれは飞ぶ性能が主だ。かぐや姫の作者は、大変な才能である。

羽衣に着がえるところで、私は适当に訳したが、姫は形见にと着物をぬぎ、ミカドへの手纸を书く。どの程度にぬいだか、気にすると、とまどう。すっと読めてしまう部分だが。

结末は、地球人を下级人间としていて、SFのそのテーマの元祖ということになる。いやな気分の効果をねらったのが多い。しかし、ここでは、あっけらかんと终っている。あと味も、とくに悪くない。

上海龙凤shlf最新地址|寓《ぐう》|意《い》のないのがいい。作者の才能と人柄のせいだろう。ご自由にお考え下さい。お考えにならなくても、けっこうです。面白い话は、决してなにかを押しつけない。

娘を嫁にやるのも、天に帰すのも大差あるまいと思うが、それは现代でのこと。姫はそのまま家に住み、特定の男性が|通《かよ》ってくる形でもよかった时代である。

あとは解説で。

解説

ひとつの试みとして、私なりの现代语訳をやってみた。心がけた第一は、できるだけ物语作者の立场に近づいてみようとしたこと。

なにしろ、わが国で、はじめての物语だ。その前に、なかったとは断言できない。しかし、わかりやすく、魅力的で、面白かったからこそ、この物语がその栄誉を与えられているわけだ。

上海龙凤shlf最新地址もっとも、社会背景も変っている。原文に忠実なようつとめたが、自分なりのくふうも加え、章の终りごとに、ほどほどの补足も书いた。また、改行もふやした。

訳していて気がついたことだが、かぐや姫が天空の外の人であった点を除けば、なんの飞跃もない。竹からの出生、羽衣などは、それに付随したことである。

上海龙凤shlf最新地址动物が口をさくわけでもなければ、神仏もこれといった力を示さない。龙だって现実には出现せず、霊魂もただよわず、ラストの不死の薬はぼかしたまま。

上海龙凤shlf最新地址そこが、物语として、みごとなのだ。利益や出世の话だけだったら、つまらない话だ。といって、むやみに鬼を出し、化け物を出し、动物を动かしては、ごつごう主义になる。

そりゃあ、超自然的な民话も、ないわけではない。しかし、ごく短いものに限られる。少し长目になると、ルール无视でごたつきかねない。『竹取物语』では、超自然的な発想はひとつだけで、あとは人间的なドラマである。だから、すなおに面白い。そのノウハウを知っていて书いたのだから、この作者はなみなみならぬ人物だ。しかも、前例となる小説がなかったのだから。

纸に笔で、この物语を一気に书きあげたのではないだろう。话すのが好きで、さまざまな物语を作って话し、その反応のなかから手法を身につけ、まとめて书き残すかとの気持ちになった结果と思う。このあとで多く作られたお姫さま物语の、さらに先をいっているようで、私は皮肉さを感じた。

上海龙凤shlf最新地址また、描写を极端に控えているのも、特色である。四季の変化のゆたかな日本なのに、それに関连したのが、まったくない。中秋の名月で、私は少し加笔したが。

上海龙凤shlf最新地址姫がいかに美人かの描写もなく、思いを寄せる男性たちの年齢、顔つきも不明。心理描写だって、简単なものだ。最後の章など「泣く」の表现が多出する。

つまり、発想とストーリーとで、人を引き込んでしまうのだ。构成に自信あればこそだ。描写を押さえると、読者や闻き手は、自分の体験でその人のイメージを作ってくれ、话にとけ込んでくれる。

そのパワーが失われると、季节描写や心理描写に逃げ、つまらなくなる。新人の短编の选をやっていると、はじめの部分で夏の日の描写があったりする。読み终って、夏でなくても成立するのにと、点が悪くなる。美人だって、くわしく描写すると、好みじゃないねと、そこで终り。

上海龙凤shlf最新地址蓬莱など、中国の神话を引用しているが、作者は信じていないし、それは闻き手も同様だったからだろう。仏教も、あまり関系ない。先駆者というものは、时代に恵まれるといえそうだ。

訳では、もっと熟语を使いたかったが、その限界がむずかしい。蓬莱の玉の枝の细工代の未払いの件。当时は金銭以外の物品でも支払われていた。原文は|禄《ろく》だが、报酬が最も适当と思った。

上海龙凤shlf最新地址ほかに原文では、返事とか|功《く》|徳《どく》とか、熟语もいくらか出ている。ふやせば読みやすくなるが、ムードをこわす。自分なりの判断でやるほかなかった。

最も参考になったのは、吉行淳之介訳『好色一代男』(中央公论社)で、訳文とは别に书かれた「訳者覚书」の部分は読んで面白く、まさに同感だった。

そのころの日用语を、対応する现代语になおしただけでは、つまらないものになる。また、なまじ现代でも通じそうな用语には、迷わされやすい。

上海龙凤shlf最新地址吉行さんは「さもなき」の形容词に悩んでいる。「それほどでもない」としたくなるが、调べてみると、むしろ「さも·なし」は强い否定の意味だったらしい。

この『竹取』でも、多くの人は「ともすれば」をそのまま使っているが、现代では意味がずれているし、あまり使われていないのではないか。『竹取』が『一代男』より楽だったのは、前作がなく、パロディ的な扱いがなかったからだ。『一代男』に「兵部卿の|匂《にお》い袋」なるものが出てくるが、だれもブランド名と思うだろう。それが源氏物语をふまえたものとはねえ。

吉行さんが、あえて『一代男』を手がけたのは、なぜか。作者の西鹤が花鸟风月に反逆し、面白さの原点に戻ろうとした点にあるらしい。

上海龙凤shlf最新地址訳のむずかしさは、外国文の翻訳体験者がいろいろ书いているので、ほどほどにしておく。

ここで参考にさせていただいた书名を并べ、感谢いたします。

中河与一訳注『竹取物语』角川文库

上海龙凤shlf最新地址昭和三十一年初版。私には読みやすかったが、旧字旧かなで、若い人にはどうだろう。それなりの感情が伝わってくるけど。

野口元大校注『竹取物语』新潮日本古典集成

上海龙凤shlf最新地址これは原文を主とし、校注がくわしく、もとのままを味わいたい人には、适切な内容だと思う。

川端康成訳『竹取物语』日本の古典 河出书房新社

昭和四十六年刊。これは川端訳というより、监修というべきだろう。若い人の文らしく、そのかわり自由な调子がある。

田中保隆『竹取·落洼物语』古典文学全集 ポプラ社

学校図书馆协议会の选定図书で「です·ます」调である。

上海龙凤shlf最新地址三谷栄一编 监赏日本古典文学『竹取物语·宇津保物语』角川书店

右の五册、それぞれ感心させられる个所が多かった。ほかにも现代语訳のあることは知っていたが、あまり手をひろげなかった。

文学辞典、百科辞典にも、それぞれ解説はのっている。私の场合、研究者としてでなく、作者に感情移入するのがねらいだったので、くわしいことは略す。

上海龙凤shlf最新地址数十年前に、チベットの民话の中国语訳の本が出て『竹取』と类似部分があると话题になったらしい。ここに一册の本がある。

上海龙凤shlf最新地址金子民雄訳 オコーナー编『チベットの民话』白水社 昭和五十五年。

上海龙凤shlf最新地址英国での出版は一九〇六年。かなり古い。まえがきで、中国とインドからの物语が多く、ねをあげている。地方色ゼロとも评している。语り手としては巧みな种族らしいが。

上海龙凤shlf最新地址ヒンズー教の影响か、动物のからむ话が多い。中国で『竹取』の原形が発见されない限り、日本からの流入と判断するのが常识だ。『竹取』はストーリーが主で、どこの土地でも通用する话なのだ。私も自作を何回も流用されているので、よくわかる。私の作品は中国语にいくつも訳されているから、いまのチベットで民话あつかいで话されているのではなかろうか。

上海龙凤shlf最新地址アメリカ産らしいジョークを読み、面白いと思った。半年ほどしてモスクワから雑志の编集者が来て、うまい日本语で同じジョークを话した。面白くて作者不明だと、いかに早くひろまるかの、いい例だろう。

それにしても、月とはふしぎな天体である。太阳系の惑星で、これほど大きな比率の卫星はない。しかも、见かけの大きさが太阳と同じ。そのため、日食や月食が起る。

中秋の名月の特色は、前日もその次の日も、月の出の时刻にあまり差がないこと。ほかの季节だと一日ちがうと五十分の差があることもある。

生命の発生も、大海のなかではなく、入江のような场所で、潮の満干によってではないかと思う。人体をはじめ、生物のバイオリズム(周期)は、月に関连している。

その満干だが、地中海では差がほとんどなく、エジプト文明、ギリシャ文明などでは、月の影响とは気づかなかった。メソポタミア文明も同じだが、なにかの力を想像してだろう、占星术をうみ出した。

上海龙凤shlf最新地址しかし、有史前の日本では、マレー系、南方海洋系の渡来民族もまざっていたはずだ。理解とまではいかないが、なにかを感じていたかもしれない。贝塚が各地に残っているし。根拠のない仮説ではあるが。

上海龙凤shlf最新地址いくらかでも月や宇宙や空想に、そして物语の世界に、亲しみを抱いていただければと、あまり解説风でない文章を书いたわけです。|竹取物语《たけとりものがたり》